2015年にTVドラマにもなって大ヒットした池井戸潤さんの下町ロケット、そのテーマは特許権と言う武器を用いて中小企業が大企業を相手に戦い、夢を実現していくと言うものです。
下町ロケットの冒頭は特許の威力を示すため、主人公の佃が社長を務める技術力がある中小企業である佃製作所が競合で大企業のナカシマ工業から特許権の侵害訴訟で訴えられるストーリーから始まります。
ナカシマ工業は佃製作所への特許侵害訴訟の提訴前に特許侵害についての見解を記載した書面を内容証明で佃製作所に送付し、特許侵害の有無についての検討会を設定しています。
特許実務の観点から、なぜ、ナカシマ工業は特許侵害の疑いありと記載したレターの内容証明送付後に検討会を設定したかを検討してみました。
先ずナカシマ工業の事業企画部法務グループの三田と西森との居酒屋での会話からナカシマ工業の佃製作所への侵害訴訟提訴の狙いは佃製作所の買収です。
その為には侵害訴訟を戦える特許を用いて訴訟を長引かせる必要がありました。
ナカシマ工業は特許侵害の疑いありの意見を記載したレターに対する佃製作所の主張に対し、ナカシマ工業の反論に対し丁寧に応えています。
検討会の時点では秘密保持契約も締結していません。。。
ナカシマ工業は検討会で得た情報を生かして、裁判に用いる特許を補強すると共に訴状の論理を強化したものと思います。
この部分の生々しい事例としてキヤノンの特許部長を務めた丸島氏の著書「キヤノン特許部隊」のゼロックスとキヤノンとの複写機での攻防が参考になります。
当初、複写機分野ではゼロックスが多数の特許で市場を独占していたところ、キヤノンが特許を回避した複写機を完成させます。
これを知ったゼロックスはキヤノンに対し技術者を送り込み秘密保持契約へのサインを拒否した上での技術質問会を設定します。
その後、ゼロックスはキヤノンから得た情報をベースにキヤノン製品の上市時期よりも前に行った出願の権利範囲を広げる修正を行い攻撃の準備を行いました。
下町ロケットでナカシマ工業が佃製作所への特許侵害訴訟で用いる特許を補強するため、検討会を設定したと考えられます。
小説では秘密保持契約についての言及はありませんでしたが、検討会の前に秘密保持契約は締結していなかったと思われます。
現実の世界で同じことが頻繁に起こるかは分かりませんが、検討会を設定する場合には秘密保持契約で保険を掛けるか、開示する情報を管理するかの手当が必要です。