秘密保持契約締結で失敗しないために

「取引先から秘密保持契約を結んで情報交換しましょうと言われたが、留意点を知りたい。」

「取引先に秘密情報を開示するけど、しっかりと秘密を守りたい」

この記事はそんな方に向けて書いています。

はじめまして。

2005年より知財業界在住、サラリーマン弁理士ブロガーのパテろうです。

近年、オープンイノベーションというキャッチーな言葉と共に自社の資源に加えて他社の資源も活用し魅力的な製品やサービスを開発する流れができてきました。

それに伴い、外部と情報のやりとりをする為に秘密保持契約を締結する機会も増えています。

ネットでも秘密保持契約と入力すれば、色々な雛形が紹介されています。

秘密保持契約はお互いに開示する秘密情報を適切に開示し秘密に保持しようというのが趣旨ですが、情報は有体物と違って管理が非常に難しいため、取り扱いを間違うと思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。

この記事では筆者が外部とのやり取りを通じて得た知見をもとに秘密保持契約で失敗しないための留意点について解説します。

 

◆締結の必要性を検討

秘密保持契約は他社との取り組みを検討する際等、事業上、比較的、締結する機会の多い契約です。

オープンイノベーションを進めていく方針をとる企業も増えていますが、それを進めると締結する機会はさらに増える事が想定されます。

ただ、秘密保持契約も契約であり、締結後に情報を受領すると、その情報を管理する義務が生じます。

情報を開示しなければならない場合は秘密保持契約を締結して開示する情報を秘密に保持するのが良いですが、情報を受領する場合は、その情報の受領のために秘密保持契約の締結が必要かを検討し、場合によっては秘密保持契約無しで、秘密でない情報のみで検討を進めることを交渉しても良いと思います。

◆秘密情報の定義

秘密保持契約では秘密情報の範囲を定義しています。通常、この範囲が管理対象となります。

例えば口頭で得た情報は録音等をしていない限り、後日、その範囲を確認することは困難となります。

秘密保持契約の対象の行為を行う過程で情報を得る事が想定される場合は、口頭で得た情報は後日、書面でその内容を相互に確認したものに限定する等、その後のトラブルを避ける為にも秘密情報の範囲が明確になるように定義しておくのが安全です。

◆目的外使用の制限

技術導入の検討や共同取組みの検討等、事業上の目的の遂行に秘密情報を交換する必要が生じたため、秘密保持契約を結ぶことで目的の行為を進めれるようにします。

一方で開示された秘密情報を無制限に用いられ、開発行為に活用される等、思わぬ不利益を被ることもあり得ます。

秘密情報を守る立場を取るのであれば、秘密情報を適用できる範囲を秘密保持契約の目的の範囲に限るのが安全です。

このために秘密保持契約の目的行為を明確に定義すると共に目的外使用の禁止の規定を設けておくのが良いです。

また、開示する情報が技術情報である場合には、関連発明の取り扱いの規定を設けることも検討します。

ただし、関連発明の取り扱いの規定については、相手から受領した秘密情報に基づいて創作された発明か、自社が元々から保有していた情報に基づいて創作された発明かを客観的に線分けする事は通常、困難です。

例えば、海外企業と秘密保持契約を締結した後、相手企業から秘密保持契約の目的の業務に必要な情報のほか、自社開発領域周辺の情報を多数、受信してしまったがために、その後の特許出願が制限されてしまった例もあり、技術面の秘密保持契約では、この辺りの規定の解釈で揉めるケースが多いようです。

秘密保持契約には規定する内容によって相手方に自社の秘密情報を守らせる効果がある一方で、その規定と相手から受領した秘密情報によって行動が制限されてしまうリスクがあります。

自社の開発領域近傍で情報を交換するときは関連発明の取り扱い等、秘密情報の管理によって不利益が生じないかを慎重に検討しましょう。

場合によっては弁護士や弁理士で契約実務に明るい専門家に相談をするのも良いと思います。

 

◆契約期間

契約期間は秘密を管理する義務が生じる期間です。一般的に情報を開示する側は長く、一方で情報を受領する側は短くしたいと考えます。対象の秘密情報が特許出願等がされており、その後、出願公開される場合もあるため、それらを考慮して契約期間は交渉していくのが良いです。

◆秘密情報を共有できる範囲

情報の管理のため、秘密情報を共有できる従業員等の範囲を決めておくことがあります。

なお、親会社との決済の規定等でグループ会社間で情報を共有しないといけない場合は、決済ができる様にこの範囲を適切に定めることで、その後の不要なトラブルを回避しましょう。

◆締結後の情報管理

秘密保持契約を締結した後は、契約に規定する範囲で秘密情報の管理の義務が生じます。

情報は無体物で、情報の管理が適切に行われているかを客観的に判断することは非常に難しいです。

自社開発領域周辺の情報を多数、受信してしまったがために、その後の特許出願が制限されてしまう場合もあり得ますので、必要な情報以外は受領しないように管理をしましょう。

また、情報を開示する側も秘密保持契約を締結しているので安心と判断するのは危険です。

開示した情報を相手方が誤って流出させてしまった場合、相手方は秘密保持契約違反になるのですが、流出された情報を入手した第三者には原則、秘密保持義務は生じません

また、情報漏洩によって生じた損害額も算出が難しく、実質的に損害賠償請求も有効でないと想定しておくのが妥当です。

これを踏まえ、例えば、秘密保持契約を締結後に開示する情報は特許出願した情報に限る等、防衛策をこうじておきましょう。

このあたりの生々しい事例として、キヤノンの特許部門を牽引された丸島氏の著書が非常に参考になります。

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