共同開発成果の知財の取り扱いで失敗しないために

「顧客や原料の購入先と共同開発を行いたいけど、成果の取り扱いで揉めたくない」

「共同開発契約書について弁護士に相談する際のポイントを知りたい」

この記事はそんな方に向けて書いています。

はじめまして。

2005年より知財業界在住、サラリーマン弁理士ブロガーのパテろうです。

近年、オープンイノベーションというキャッチーな言葉と共に自社の資源に加えて他社の資源も活用し魅力的な製品やサービスを開発する流れができてきました。

外部の相手と共同して何らかの技術的なアイデアの創出を目的に取り組みを開始する場合には、共同開発契約や共同研究契約が締結します。

共同取り組みを遂行する過程で、発明等の知的財産を創出することが想定されますが、その取り扱いで揉めると、当初、想定していた共同取組みによって得た成果の活用ができなくなる恐れがあることをご存知でしょうか?

この記事では上記のようなトラブルを避けるために共同開発契約や共同研究契約を結ぶ際にあらかじめ取り組み先と協議し、契約に規定しておきたい事項について解説します。

企業の知財マンとしての視点から知財の教科書からは得にくい情報も織り交ぜてお伝えします。

 

◆特許法の関連条文

共有に係る特許権に関する特許法の条文は73条です。実用新案法や意匠法にも同様の規定が設けられています。

特許発明は複数人により同時に実施する事ができ、持分に応じた権利の活用割合を調整することが困難という事情を考慮し、この条文は共有者の行為による不測の不利益が生じることを無くすことを意図して共有の権利の取り扱いのルールを定めています。

(共有に係る特許権)

第七十三条 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。

 特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。

 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。

日本の特許法の条文の規定では、共有者が成果を実施することは取り組み開始前から予め想定されるとする一方で、共有者による第三者への権利譲渡や実施許諾等に基づく第三者の成果の実施には制限を設けることで他の共有者の不利益を避けようという考えで規定されています。

なお、この規定の考え方は各国で異なり全世界で共通する考えに統一されている訳ではありませんので、成果の実施を日本以外の国で想定されるときは、その国の規定を調べておく必要があります。

この記事では、日本での実施を想定し解説していきます。

 

◆上流との取り組みで上流の実施技術を創出することが想定される場合

自社製品の原料の購入先(自社事業の上流)と自社製品向けの原料を共同開発する場合、共同開発で原料の発明等が生じることが想定されます。

ユニクロと東レの取り組みでヒートテック向けの繊維の特許の発明等が生じる場合におけるユニクロ側の留意点がこれに当たります。

特許法73条2項では、各共有者は他の共有者の同意なく自由に特許発明を実施できる旨、規定されていますので、事前の取り決めが無ければ、例えば東レはユニクロ以外の衣料メーカーにヒートテック向けの繊維を自由に販売する事ができることになります。

これを許容するとヒートテックは機能性製品として他社品と差別化できなくなるため、共同開発契約では成果についての優先販売期間、販売量等、何らかの制限を設けることでユニクロ以外への販売の制限が規定されていると推測されます。

また、ユニクロは何らかの理由によって東レから原料の供給を受けれなくなった場合、共有の特許権者であるユニクロ自身が原料を製造することはできますが、東レ以外の原料メーカーは共有特許に係る原料を製造できないため、ヒートテックの商品を製造できなくなります。

このリスク回避と供給責任のインセンティブを強化するために、供給責任を果たせない場合には第三者の原料メーカーへの実施許諾に同意する等の規定が設けられていると推測されます。

製品の原料で差別化する方針で上流との取り組みを行う場合は上記の点を踏まえ、成果を活用して差別化できるように契約書で手当を規定しておきましょう。

◆上流との取り組みで自社の実施技術を創出することが想定される場合

自社製品の原料の購入先(自社事業の上流)と自社製品を共同開発する場合、自社製品の発明等が生じることが想定されます。例えばトヨタ車体とトヨタ自動車とが自動車の強度を強化する技術を共同で開発する場合等におけるトヨタ自動車側の留意点です。

特許法73条2項では、各共有者は他の共有者の同意なく自由に特許発明を実施できる旨、規定されていますので、事前の取り決めが無ければ、トヨタ自動車は自由に成果を活用した自動車を製造し販売する事ができます。

一方で上流側の企業も自由に特許発明を実施できるため、共同取組みで得たノウハウをもとに自社と同じ事業領域の製品を自社で製造又は下請けを活用して製造され、新たな競合となるリスクは生じます。これらのリスクが生じる事が現実的である場合は、上流企業自身が実施する場合は実施に同意が必要とすることや、下請け製造は第三者への実施許諾とみなす旨等を規定しておく一方で上流側企業の原料を優先的に用いて成果を実施する等、上流企業に自社と連携を促す条件を盛り込みましょう。

まずは取り組み先である上流企業が取り組みを進める意図を確認し、リスクを回避しつつ双方にメリットが得られるような条件を話し合い、納得した上で取り組みを開始しましょう。

◆下流との取り組みで自社の実施技術を創出することが想定される場合

自社製品の納品先(自社事業の下流)と自社製品を共同開発する場合、自社製品の発明等が生じることが想定されます。ユニクロと東レの取り組みでヒートテック向けの繊維の特許の発明等が生じる場合における東レ側の留意点がこれに当たります。

特許法73条2項では、各共有者は他の共有者の同意なく自由に特許発明を実施できる旨、規定されていますので、事前の取り決めが無ければ、東レはユニクロ以外の衣料メーカーにヒートテック向けの繊維を自由に販売する事ができます。

前述の通り、ユニクロ側はこれを制限する規定を要求してくると想定されますが、この要求を全面的に認めると東レ側にとっては成果の販売先がユニクロに限定されてしまい、ヒートテックが想定通り市場に受け入れられなかった場合には成果を収益化できないリスクを抱えることになります。これを避けるために優先販売期間や最低購入量等、リスクを回避する手立てを規定していると推測されます。

◆下流との取り組みで下流の実施技術を創出することが想定される場合

自社製品の納品先(自社事業の下流)と納品先企業の製品を共同開発する場合、納品先企業の製品に係る発明等が生じることが想定されます。

例えばトヨタ車体とトヨタ自動車とが自動車の強度を強化する技術を共同で開発する場合等におけるトヨタ車体側の留意点です。

特許法73条2項では、各共有者は他の共有者の同意なく自由に特許発明を実施できる旨、規定されていますので、事前の取り決めが無ければ、下流のトヨタ自動車は自由に成果を活用した自動車を製造し販売する事ができます。

一方でトヨタ車体も他の特許が無ければ、自由に成果を活用した自動車を製造し販売する事ができますが、トヨタ自動車以外の下流の企業は成果に係る特許発明を実施できず、特許法73条3項の規定により特許の共有者であるトヨタ自動車の同意が無ければ実施許諾もできないため、成果を活用して販売先を確保することはできません。

これを踏まえ、共同取組の開始前に取組の目的が取組先との取引量の増加なのか、取組先以外の新規の顧客開拓なのかを整理し、その目的が達成できる条件を検討しなければなりません。

なお、取組先以外の新規の顧客開拓を目的とする場合、契約で成果を新規顧客に実施させることに同意したとしても、取組と無関係に生じた特許については別途、手当が必要となるため、共同取組の条件協議の中で話し合いましょう。


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