画期的なアイデアを思いついた!
特許で差別化したい!
そのような方に向けて記事を書いています。
弁理士に出願を依頼すれば、出願に必要な書面を作成してもらえますが、出願人はその目的と記載すべき内容を把握しておかないと、特許を取っても活用できず、ノウハウが世間に知られた上に特許取得にかけたお金が無駄になることもあります。
権利の価値に関わらず、出願、権利化にかかる費用は同じです。
同じ費用をかけるなら、差別化できる価値ある権利を取りましょう!
◆必要な書類
特許出願に必要な書類は下記の5つです。ただし、図面は省略可能です。
①願書
②明細書
③特許請求の範囲
④図面
⑤要約書
出願人が目的を内容を把握しておくべき書類は特許請求の範囲、明細書、図面ですので、これらに絞って解説していきます。
◆特許請求の範囲
こちらは特許の権利範囲を決める書類であり、この記載内容が権利の価値を大きく左右します。
例えば、特許請求の範囲に特許の審査基準にある「化合物 Z を主成分とする殺虫剤」と記載し登録された場合、この出願が開示する化合物Zによる殺虫効果から、化合物Zに類似する化合物Aや殺虫だけでなく殺菌効果を把握できたとしても、化合物 A を主成分とする殺虫剤や化合物 Z を主成分とする殺菌剤11には権利が及びません。
特許請求の範囲は、出願人が任意に決めることができます。
一方で、創作された発明から本来、得られる効果をクレームされていなければ、当然、第三者は効果が得られるが、特許請求の範囲外の領域で実施行為を行います。
つまり、出願人は創作された発明を自己責任で発明が保護されて然るべき範囲をしっかりと特定してクレームしなければなりません。
特許請求の範囲を決める際の留意点は2つです。
①出願人のモチベーションと弁理士のモチベーションとの違いを理解する。
②試作品の形態を意識し過ぎない。
①出願人のモチベーションと弁理士のモチベーションとの違いを理解する。
出願書類は知財の専門家である弁理士が作成しているから大丈夫と思われるかもしれません。
しかし、弁理士の報酬体系は通常、出願、権利化の手続き費用と特許許可の報酬であるため、出願件数を増やすこと、効率的に特許査定をえることにモチベーションがあり、権利の価値を向上させるというモチベーションはあまりありません。
一般に特許請求の範囲の要件を限定し、権利範囲が狭める方が権利としても認められやすいため、ときに弁理士は発明が保護されて然るべき範囲は考慮に入れず、広い権利よりも狭い権利で効率的に権利化させる方針を提案をすることもあります。
あくまで弁理士は権利化することの専門家で、その知見は豊富に持っていますが、権利の価値を向上させるためには出願人から弁理士に、どんな権利を取りたいかをしっかりと説明する必要があります。
②試作品の形態を意識し過ぎない。
出願人は試作品の形態を意識し過ぎて、発明の効果を得るのに必要な要件だけでなく、不要な要件を追加してしまうこともよくあります。
例えば、バネばかりはバネ等、加えた力に比例して伸びるバネ等の性質を用いて重さを測るものですが、加えた力に比例するものであればバネである必要はありません。また、通常、販売されているバネばかりはバネが円筒状の筒に入っていることが多いですが、その筒は円筒でなく、角型形状でもワークしますし、使い勝手は落ちますが、筒が無くてもバネがあれば重さは測れます。これらを踏まえるとバネばかりの発明の特許請求の範囲は持ち手と伸縮機構と測定物の把持する機構とで定義すれば良いです。
出願人は弁理士に丸投げせず、発明の効果を得るのに必要な要件な要件を整理し、権利化策を弁理士と話し合うことで弁理士の権利化の知見を活用しましょう。
◆明細書及び図面
いずれも特許請求の範囲に記載された発明の内容を説明するための書類です。
役割は3つです。
①権利範囲を解釈する参照資料
②補正、分割の根拠書類
③公開による他者の権利化阻止
①権利範囲を解釈する参照資料
明細書及び図面は権利範囲を直接的に決めるものではありませんが、特許請求の範囲の解釈に参照されます。
例えば、特許請求の範囲について、前述の伸縮機構の例示として、バネ、ゴムと記載しておくと、バネ、ゴムは伸縮機構であることが明確になります。
さらに、伸縮機構とは加えた力に比例してその全長が伸長するものであれば、特に限定されないと記載しておくと、バネ、ゴム以外のものも伸縮機構と広く解釈され得る余地が出てきます。
一方で、発明と矛盾する記載があると、権利範囲を狭く解釈される根拠となる場合もあるので注意が必要です。
例えば、発明の価値を主張するあまり、明細書中の発明の効果の欄に発明の効果を複数記載している明細書が散見されます。
特許請求の範囲で発明の効果が得られない範囲が含まれる場合、その領域は明細書による開示のサポートが無く無効であるという判断がされる可能性もあるので不用意な効果の記載には留意しましょう。
②補正、分割の根拠書類
特許出願は審査官が先行文献を審査を経て権利範囲が定まります。
審査の過程で審査官から挙げられた先行文献に記載の発明との違いを出すために、特許請求の範囲を限定することがあります。
この場合、明細書中に発明に関する種々の記載があれば、明細書の記載された要件で特許請求の範囲を限定し先行文献に記載の発明と差別化できる場合もあります。
例えば、前述のはかりの出願で、仮に先行文献としてゴムばかりがあった場合、明細書に伸縮機構の例示としてバネ、ゴムの例示があれば、伸縮機構をバネに限定できます。
また、特許請求の範囲をはかりとして請求していた場合に、例えば、明細書の記載を根拠として持ち手と伸縮機構と測定物の把持する機構を用いた測定方法として特許請求の範囲に新たな請求項を追加できますし、分割出願もできます。
補正や分割出願の特許性の判断は、原出願の出願時で判断されるため、出願後に競合他社が類似の形態で実施してきた場合には、その形態を包含する文言を検討して効果的に競合の参入を排除できる場合もあります。
特に、米国では特許請求の範囲で要件の限定を外しても、その他の国のように新規事項の追加とは判断されないため、補正や分割は競合の参入排除に有効な手段です。
③公開による他者の権利化阻止
出願が公開されれば、明細書に記載された事項は公開情報として、その後の出願の新規性を否定する文献となります。
出願領域において、競合や顧客が選択発明を打ち込んできた場合、出願人はその選択発明の実施は制限されますので、明細書中で実施形態を戦略的に記載することで他者が選択的な発明についての権利を取得できないようにすることもできます。
ただし、実施形態を記載することで公開後は自分も選択的な発明を権利化できず、技術の強化や延命ができない場合も生じるため、何を記載するかは慎重に判断しましょう。
この記事に記載の点に留意してコスパの高い権利を取得しましょう。