あの時、特許請求の範囲をこう記載しておけば良かった。
あの頃に戻って出願し直したい!
出願後に他者が特許抜け、自社のアイデアを活用する他社に対して歯痒い思いをすることは残念ながら良く起きます。
他社実施の形態は公知になっているため、新たな出願で他社の行為に権利行使することはできません。
しかし、分割出願の制度を活用すれば、後出しジャンケンで他社実施形態を含む権利を取得できる場合があります。
◆分割出願のメリット
分割出願とは、特許出願の一部を新たな出願とできるものです。
分割出願の最大のメリットは、特許出願に記載の範囲内で行う出願であれば、もとの出願の時にされたものとみなされることです。
このメリットを活用することで出願後の他社の実施形態を観察しながら特許請求の範囲を作成して権利行使できる場合があります。
詳細を説明していきます。
出願書類には願書及び要約書の他に、特許請求の範囲、明細書、図面があります。
特許の権利範囲を決める特許請求の範囲に係る発明は、明細書や図面でサポートされている必要があるため、明細書や図面は特許請求の範囲の発明の詳細を説明するため、特許請求の範囲よりも記載が充実しています。
発明の詳細を説明する中で特許請求の範囲としてクレームし切れない内容も出てきます。
例えば、成型品の発明を説明する際に成型品の製造法の説明の中で金型の図面や製造方法の記載されていることがあります。
明細書から分割出願で金型の発明を抜き出した場合、成型品メーカーに金型を納入する金型メーカーに対しても権利活用できる可能性も出てきます。
◆分割出願が特に活用しやすい国
分割出願を活用し易い国は圧倒的に米国です。
日本の場合、分割出願の要件は明細書中にアイデアとして発明が記載されているかとなります。
例えば、元の出願を「端部に消しゴムを備えた六角形状の鉛筆」の発明として記載していた場合、この出願から消しゴムの限定を外した「六角形状の鉛筆」はアイデアとしては当初の範囲を超えるものと判断され、分割出願とは認められません。
一方で米国では出願中で記載されている要素を用いて自由に発明を特定してクレームすることができます。
出願中で記載されている要素の組み替えは自由にできるため、米国では「端部に消しゴムを備えた六角形状の鉛筆」を記載した出願から「六角形状の鉛筆」の分割出願ができます。
当然、分割出願の発明が原出願の時点で特許性があれば特許となり、権利行使もできます。
この制度を活用すれば出願後に後出しジャンケンで上市された他社の商品を観察しながら、明細書に記載された要素でその商品の特徴をカバーする特許請求の範囲を構築できます!
米国は購買力の点から消費地として魅力的であり、陪審員への損害のアピールの仕方や三倍賠償の制度によって巨額の損害額が認められる場合があるため、特許による強力な牽制力が期待できます。
米国では一時期、メーカーへの特許権の行使を目的に特許を取得するパテントトロールが問題となりましたが、パテントトロールはターゲットの製品の分析と多数の分割出願を活用することで権利行使の精度を上げていました。
米国ほどの柔軟性はありませんが、各国毎に明細書に記載されたていると認めれる範囲で後出しジャンケンできる可能性はあります。
ちなみどの国でも審査中の権利が無ければ分割出願ができないため、分割を考えている場合には特許査定後に忘れず、まず分割出願を行い審査中の出願を保有しておきましょう。
ぜひ、分割出願を活用して特許の参入障壁を強化しましょう!