中小企業診断士試験、合格後に受講する15日間の実務補修、登録に向けての期待と共に感じる長期の研修への不安感、、、
そんな不安に対して筆者の体験を共有します。
実務補修とは
中小企業診断士の登録には、2次試験合格後3年以内に実務補習を15日以上受けるか、診断実務に15日以上従事することが必要となります。
自分で中小企業を見つけ、診断を行い診断業績実績証明書に社長の印を貰うことでも登録に繋げることができますが、通常は中小企業診断協会などが主催している「実務補習」を受ける方がほとんどと思います。
実務補習は一つの企業に対しての診断報告書作成のための研修日5日を1ターンとして、合計3ターン(3社)の合計15日で構成されています。5日間コースとして1ターン毎に3回に分けて申し込むか、15日間コースとして3ターンを一度に申し込むかを選択できます。
実務従事を行う場合の必要書類
実務補修の費用
実務補修受講にかかる費用ですが、登録に必要な15日間分の研修費用は結構かかります。登録後の中小企業診断士活動で回収するための先行投資と割り切りましょう。
(補修費用)54,300/5日✖️3回 +(テキスト代)700 = 163,600円
テキストは実務補修の概要と実務補修で完成させる診断報告書の要件を記載しています。
なお、テキストは1回購入すれば良いので5日間コースを3回に分けて申し込む場合には最初の回のみテキスト代が必要となります。
トータルの費用は15日間コースも5日間コースを3回受講する場合も同額になります。
募集開始初日の申し込みが安全
実務補修の申し込み期間は1週間程度、設けられています。
受講申請は先着順となり、募集枠が埋まった段階で受付終了となります。
中小企業診断士は毎年1,000人前後の合格者が出ていますが、実務補修の枠は合格発表後の最も枠の大きい2月募集で15日間コースと5日間コースとを合わせても800人程度のため、合格者全員分の受講枠がありません。
募集期間内に申し込めば大丈夫と思いきや、受付開始後早々に募集枠が埋まってしまうことが多いため、募集初日に申し込んだ方が安全です。早く申し込まないと枠が埋まってしまうので、早めに登録を行いたい場合は募集初日に申し込みましょう。
申し込みができると、メールで受講料の振り込み先の連絡が来ますので、期限内に振り込みを完了させれば、実務補修の申し込み手続き完了です。
診断先企業の連絡
研修の5日程度前に、指導員の先生から研修メンバーにメールで診断先企業名と事業概要、所属業界の連絡が来ます。
研修メンバーは5〜6名で構成されますが、この先生からのメールで研修メンバーの人数と名前が分かります。
連絡の際に先生の提案でメンバーの担当割りを行うこともあります。
担当としては経営戦略(班長)、財務戦略、人事戦略、商品戦略、物流戦略等があり、経営戦略(班長)、財務戦略の他は対象企業に想定される課題に応じて、講師の先生から提示頂く担当名に従って担当割りを行います。
実務補修初日午後の企業訪問の前に担当決めを行う場合もあるようなのですが、筆者は3ターンの研修共に研修初日前に担当割りを行なっていました。
個人的な感想ですが、早めに担当が決まっている方が事前準備も焦点が絞れるので取り組み易いと思います。
事前準備
まず、対象企業のH Pの有無、HPがある場合には事業概要や自社HPで発信している情報の内容をチェックしましょう。HPに記載されている情報の内容から対象企業の情報発信の考え方の仮説が立てれるので、HPの見やすさ等を確認しておきましょう。
また、口コミサイトでの対象企業の評価も参考になります。特に飲食業の場合、食べログ等の口コミサイトの書き込み数や書き込みの内容はブランドイメージやブランドの浸透度を評価するのに有効です。
対象企業の所属業界の確認には業種別審査辞典が便利です。
こちらは細かく分類された業種毎に特徴の分析がされています。
実務補修ではSWOTの外部環境の切り口として参考になります。
業種別審査辞典は高価な資料のため、図書館で該当箇所のコピーさせてもらうのが良いです。
ただ、対象企業の連絡を受けるのは研修の直前のため、スケジュール的にデータの入手が難しい場合には、メンバーの中で入手し易い人に入手してもらいデータを全員で共有してもらうことも手です。
また、事前に講師の先生から対象企業の財務諸表も受領できる場合もあります。
特に財務担当の方はヒアリング前に収益性、効率性、安全性に関する指標を分析しておき、実務補修初日午前にメンバーに共有すると、ヒアリングのポイントも絞れるため、チームメンバーから感謝されますので事前準備として収益性、効率性、安全性の観点で軽く財務分析を行い、財務面の課題を抽出しておくのが良いです。
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実務補修日程
実務補修は凡そ2週間で1ターンが完成するスケジュールとなっています。
15日間コースの場合は、1ターン終了の5日目から次のターンの事前調査が始まり、1ヶ月半かけて3ターンをこなすことになります。
事前準備開始(研修開始4日前位)
指導員の先生から、メールで対象企業と企業概要、業界等の情報、財務諸表を受領します。
この時点では、先生からの情報とネット等の公開情報をもとに可能な範囲で対象企業及び業界の情報を入手しましょう。
入手した情報をもとに初日の企業訪問時の質問事項を整理しておくと、初日をスムーズに迎えることができます。
1日目:企業訪問ヒアリング
研修初日の午前は指導員の先生から実務補修の概要、スケジュール、ヒアリング時の心構えについて説明を受け、経営戦略、財務戦略等の担当部門毎に対象企業のヒアリング時の質問の大まかな内容を決めます。
午後には、研修会場から電車やバスを使って対象企業を訪問します。
筆者は実務補修3ターンの対象企業は3社共に、研修会場から1時間半位の場所にある企業でした。対象企業は実務補修を行う診断士協会の管轄する県内の企業が対象となるため、会場から遠い場所に立地する企業が対象になることもよくあるようです。
企業のヒアリング時間は対象企業によってバラつきますが、1時間半〜2時間程度で行われます。
午前の打合せで想定していた質問の他にも、対象企業の業務プロセス、製品、遠隔等をヒアリングしていく中で強みになり得る部分はどんどん掘り下げて質問をしていきましょう。
初日はヒアリング後に解散しますが、ヒアリングの結果は当日中に簡単にまとめておくと2日目の企業分析がしやすくなります。
2日目:企業分析、課題設定
補修2日目は初日のヒアリング結果を踏まえてSWOT分析を行い、分析結果を参考に対象企業のあるべき姿と現状との課題を設定します。
2日目で議論した内容を報告書の骨子として、3日までの6日間で担当部門の報告書を実質的に完成させることになります。
メンバー間での課題設定の解決施策の方向性にずれがあった場合、3日目終了後から4日目開始までの間に報告書の大幅な修正作業が必要となるため、2日目の議論で課題設定や解決施策の認識はすり合わせしておきましょう。
2日目終了後は、3日目までに報告書をひたすら作成する作業となります。
通常は会社の業務をこなしながら時間外で報告書を準備する事になるため、研修2日目から3日目までの期間が最もきついです。
また、研修3日目で課題設定や施策の方向性にずれが有ると大変なことになるため、中間地点の水曜日位にメンバーでZoom会議を開催し進捗状況や現状の報告書の内容を確認しておくことがおすすめです。
このZoom会議でメンバーの進捗具合を把握しつつ、自分のパートが相対的に遅れている場合は3日目に向けて必死で挽回することになります。
3日目:報告書の読み合わせ
診断士協会からのスケジュールでは3日目は報告書作成となっていますが、3日目開始時点では実質的に完成した各担当毎の報告書を順番に読み合わせていき、報告書全体としての整合性が取れているか、ありたい姿と現状のギャップに対し、施策の妥当性に矛盾が無いかの観点から修正点、追加点を整理していく事になります。
3日目から4日目に掛けては打合せ内容に即して報告書の加筆、修正を行い報告書を完成させます。
4日目:報告書の完成
4日目午前は各自の修正部分を発表し、3日目の指摘事項が反映されているかのチェックを行います。
4日目午後はメンバーの報告書を一つにまとめる作業となります。
報告書全体のフォーマットを揃えたり、目次を調整したりと調整作業がかなり時間がかかります。これは全員でできる作業では無いため、メンバーの誰かにお任せし、その他のメンバーは報告書の誤字、脱字のチェック、報告書の表紙の作成作業、報告書と併せて診断士協会に提出する書類のまとめの作業を行います。
5日目:対象企業への報告会
5日目は完成した報告書をもとに対象企業を訪問し、それぞれの担当分野の改善策を提案します。
報告会は、一人20分程度で全体で2時間程度で行います。
対象企業の社長も対象企業について第三者の意見を聞きたいという要望を持っているため、真剣に報告を聞いてくれますので、分析結果と改善策をしっかりと説明しましょう。
実務補修で得るもの
多くの方は仕事をしながら業務外で実務補修に参加し報告書を作成することになるため、かなりきつい作業になります。このため、実務補修を一緒に乗り切ったメンバーとは戦友みたいな関係になれると思います。
15日間コースの場合、同じメンバーで報告書作成を3ターンこなすので、お互いにメンバーの個性も把握でき、回を重ねる毎にチームとしての経験値が高まっていくのが実感できます。
研修でも、同じような境遇のメンバーが居ることで、メンバーに迷惑を掛けてはいけないという思いで頑張れることも多いですし、お互いにフォローもし合えます。
メンバーそれぞれに中小企業診断士を目指す背景があり、実務補修への思いもメンバーそれぞれに思いがあ流ため、メンバーの人生がかかっていることを感じます。
15日間コースと5日間コース✖️3回、どちらがお勧めか?
15日間コースがおすすめです。
一般的に報告書は普段の業務とは違う作業になる方の方が多いと思いますので、研修の間隔を開けてしまうと報告書作成の感覚を取り戻すのに時間がかかるため、一気にやり切る方が効率も良いです。
また、15日間コースは3ターンの研修は全て同じメンバーで臨みます。
3回のターンをやり切る過程でメンバーの得意、不得意が見えてきて回を追う毎にチームとしての完成度が高まっていき、効率的に補修を進めれるようになっていきます。
一方で5日間コースはターン毎にメンバーが組まれます。同じメンバーで臨んだ方がメンバー間の繋がりも深まりますので、有給等の取得ができるのであれば15日間コースを受講するのがおすすめです。